冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。
「花、よかったよ」


名前も知らないその彼にお礼を言うために一番に話しかけようとしたんだけど、舞台袖では父がニコニコしながら私に歩みよってきた。


そして満足げに何度も褒めてくれた。


「もう、お父さんったら」


父はハンカチを目頭に当てて感動しているみたいで、親ばか全開。


だけど、初めて父の期待に少しだけ答えられた気がして嬉しかった。


「お嬢様、素晴らしかったです」


「あ、先生ありがとうございます」


セレブ学科の先生方にも取り囲まれてしまってすぐには動けなかった。


そしていつのまにか彼の姿を見失ってしまったんだ。


彼はお礼を言う前にその場から立ち去ってしまって、それから会うことが出来なかった。


学科の違う彼とは接点もなくて、その上私の思った通り彼は特別な人だったので簡単に近づくことが出来なかった。
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