冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。
えーっ、その程度の認識しかないんだ。


この調子だと、私だってことも忘れてたんだな。


私にとっては彼との運命的な出会い。


それこそ、大感動のエピソードだっていうのに。


あんまり彼には響かなかったかな、残念。


と思っていたら、千景くんは私をじいっと見つめてる。


「悪い、実は細かいとこまでは思い出せない。
けど、まあわかったよ」


「なにが、わかったの?」


「花が俺を選んだきっかけが顔だけじゃ無いってわかったってこと」


「うん、そうだよ」


良かった、ようやく伝わったみたいで。


「顔だけで好きになられるとか、さすがに寂しいから」


彼はフッとため息混じりに笑う。


「あ、じゃあ、嬉しいってことかな?」


期待してそう尋ねたら、彼は瞳をそらせてベンチから立ち上がる。


あれ、もしかして照れてる?
どっちだろう、わかりにくい。


「そんなに前からずっと好きだったって聞いたら、ちょっと引いた」


意地悪な顔で言われたのでガックリ。


「もう、ひどーい」
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