冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。
「わかった、今度から気を付ける」


「うん」


そう言って拗ねたように俺の袖のあたりをクイッと引っ張る花。


おい、こういう仕草とか表情とかどこで覚えたんだよ。


「あのね、雨城くんに今日お願いがあって」


「どうした?いま3分くらい経過したけど」


だけど、俺は野暮な奴なのでついつい時間のことを言ってしまう。


「うんそうだね、恥ずかしがってる暇なんてないよね、うん、あのね」


花はハッとしたような顔をして、また俺の袖を引っ張る。


そして意を決したように口をひらいた。


「あの、駅まで手を繋いで歩いてほしいの。普通のカップルみたいに」


「え?」


「ダメ?」


「いや、っそんなことは」


正直予想もしていなかったことを言われて驚いていたんだけど、俺は平気を装って彼女に手を伸ばした。
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