冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。
痛いんじゃないのかよ?って思ったけど、今度は柔らかく手を握りなおす。


「じゃあ、ゆっくり歩くよ」


「うん」


彼女はパッと顔を輝かせて花びらが開いたようにふんわりと笑った。


「……」


なんだよ、花。その笑顔はズルいぞ。


そんな顔をされたらドキッとするだろ。


でもそんなことを想っていたことなんて悟られないように無言で歩いた。


彼女も何も言わずに駅までの道を、すぐとなりで寄り添うように歩いていた。


とても嬉しそうな笑顔を浮かべながら。
< 134 / 351 >

この作品をシェア

pagetop