冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。
「そうだな」


片手でポケットから定期券を取り出した彼は、ちょっとだけ苦笑い。


「もう離してもいいか?」


「え?」


見れば、私はまだガッシリ彼の手を握っている。


あ、無意識だったけど手を離したくなくて力を込めていたみたい。


「まだ手繋いでいたいな……」


思わず本音がポロリ。


すがるように彼を見上げたら、困ったような顔をされた。


いつもの私なら、こんなわがままは言いたくても絶対に言えない。


だけど、この日はなんだかおかしくて。


「花?」


彼の抑揚のない低い声で名前を呼ばれてもまだ手を離せなくて。


まだお別れしたくないよ、明日から2日も会えないんだもん。


こうして彼のぬくもりを感じてしまったらもう気持ちが抑えられなくて。
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