冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。
困らせたいわけじゃないのに、自分でもどうしていいのかわからない。


だけどふいに彼が腕時計を見たから、我に返った。


いけない、彼はこれからバイトなんだ。


私ったら何やってるんだろう。


「ご、ごめんね」


慌てて謝ってから、すぐに手を離した。


わー、なにやってるの。私ったら恥ずかしい。


顔から火が出そうなくらいに熱い。


しかも、この時になってようやく気が付いたんだけど私ったら手汗が凄い。


「わるい、この電車に乗り遅れたらやばいから」


怒ってるのかなって思ってたけど、どうしてだか彼の眼差しは優しくて。


というより、憐れんでるのかも。


「あーもう、そんな顔するなって」


あれっ、て思って見上げたら頭の上にポンって手を乗せられて。


クシャクシャクシャって。
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