冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。
不器用に撫でてくれたからびっくりした。


なんにもお願いしたわけじゃないのに彼の方からこんな風にスキンシップをしてくれたのは初めて。


う、嬉しい。


足がガクガクして重心がおかしくなったみたいにフラフラする。


そのくらい、最高に幸せ。


「じゃあまた明日な」


急いでそう言った彼は改札を通って早足でホームへ向かっていく。


その後ろ姿を見つめながらしばし、ぼんやり。


だけど、ひとつ忘れ物に気が付いた。


「千景くんっ」


初めての名前呼びはちょっと恥ずかしい。


だけど真っ赤になりながら大きな声で叫んだら彼の背中がビクッてなった。


あ、いまかなり驚かせてしまったかな。


「バイバイまた明日電話してね」


振り返った呆れ顔の彼に、ニコニコ笑って手を振った。


ブンブン、ブンブン。


しつこく手を振ったら、彼は瞳を細めて手を振り返してくれた。


あ、千景くんが笑ってる。


その笑顔がもう爽やかイケメン過ぎて。


思わず失神しちゃいそうなくらいに素敵で。


はあ、そんな笑顔をされたら私この先心臓が持たないから。


もう少し手加減してね、千景くん。

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