冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。
「花、そんなに強く抱き着いたら綺麗な服がしわになるんじゃないか?」


「いいの」


「もう少し離れた方がいいかも……」


彼は困ったように苦笑して私の身体を引き離そうとするけど、イヤイヤって頭を横にふった。


「やだ、もう少しだけ」


ますます背中に回した腕に力を込めた。


「でも、このままだと俺の方が……」


耳元でそんな風にささやかれたら私おかしくなりそうだよ。


「わがまま言ってごめんね」


「いやそういう意味じゃなくってさ」


「嫌だった?」


「そうじゃないけど。ここは色々とヤバい」


私が顔を上げたら彼とバチッと視線がぶつかる。


千景くんは照れたような顔をしてすぐに目をそらせてしまった。


頬と耳がうっすらピンク色。


「うわっ……おまえら……何見てんだ」


だけど次の瞬間、彼は動揺したように大きな声を上げた。
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