冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。
せっかく会えたのにもう行っちゃうなんて寂しい。


彼が逃げるように早足で歩きだしたから急いで追いかけた。


「待って、千景くん」


フェンスの扉を開けてグラウンドの方へ飛び出した。


その時にようやく気が付いたんだけど、今グラウンドの方では普通学科のクラスが体育をしているみたいで。


男女入り混じってトラックを走っているから、おそらくマラソンの授業なんだろうな。


千景くんは私がテニスコートにいることに気が付いて会いに来てくれたみたい。


「千景くんっ」


逃げられないように、彼の腕にガバッとしがみついた。


「おい、人前でそんなにへばりつくなって」


焦ったように声を上げる千景くん。


「やだやだ、千景くんが逃げちゃうから」


「逃げないから、離せって」


あんまり彼が迷惑そうに言うから急に悲しくなって反論してしまう。
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