冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。
健気にお願いされたから、ドキッとする。


そんなのお安い御用だし。


「花、がんばれ」


心をこめてそう言ったら、嬉しそうな声が返ってきた。


「ありがとう、私、頑張るね」


「ああ」


「あとね、もうひとつ言って欲しいことが……」


「なに?いいよ、今日は特別に何でも言ってあげるよ」


ガラにもなく優しい声をだす自分自身にちょっと驚いた。


だけど、彼女は急に慌てだして。


「う、うん。でもやっぱりいい。ごめん」


「は?なんだよそれ。いいから言えよ」


彼女が望む言葉を口にするくらい簡単だ。


疲れている彼女を俺の言葉でいいなら、少しでも癒してやりたい。


そんなことくらいしか今の俺にはできないんだから。


「……好…き」


消え入りそうな彼女のささやくような声。


「え、なんて?」


よく聞こえなくて聞き返した。
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