冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。
「花には伝わったはずだからこれでいいんだよ」
心配顔の伊達に俺はきっぱりと言った。
なぜだろう、不思議と先ほどまでの胸の奥のモヤモヤが静まっていくような気がした。
頑張れ花、俺がちゃんと見ててやるからな。
そうだ、あの時も俺はそんなことを言ったんだったな。
この時になってようやくしっかりと思い出した。
あの入学式の日、全校生徒の前で震えていた女の子。
俺は彼女の肩を押して舞台のそでで見守っていた。
彼女の気持ちが新入生達全員に、うまく伝えられますようにって祈りながら。
あの時のどこか頼りない彼女の横顔を思い出した。
何度も言葉を詰まらせながら最後まで懸命に頑張る彼女の姿に、俺は心を打たれたんだっけ。
あの日の君との初めての出会いを、俺はどうして忘れていたんだろう。
今回だって同じことだよな。
あの時みたいに俺は頑張る花を応援しようって決めたんだ。