冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。
あの時俺を追い詰めた先生に悪気はなかったことは、この時ちゃんと分かったけど。


いくらなんでもあの日のことを彼女にバラされたら俺が困るんだ。


「すべて白紙にもどしてもらおう」


いやだから白紙になんて戻せるわけないから。


もしも彼女がそんなことを今更知ってしまったら、傷つけてしまうだけだろう。


だけどその時、後ろから視線を感じギクリとした。


「ちかげく……ん」


消え入りそうなくらいか細い声を背中で聞いた。


その瞬間、俺は冷水を頭からぶっかけられたように凍りつく。


振り返らなくても、その声を聞けば後ろにいるのが誰だかわかった。


そしてその人が今どんな顔をしているかも。


悲しそうなその顔が容易に想像できた。


クソッ、なんでこんな時に。


「花」


振り返ると彼女はもう背中を向けて走りだしていた。


「待てよ」


急いで後を追いかけたけど、意外にもなかなか追いつけない。
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