冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。
おい見た目に反して足が速いとか勘弁しろよ。


「花、待てよ」


それでも全力で走って彼女の腕を掴んだらようやく立ち止まってくれた。


「花、話を聞けよ」


「いや……」


小さい肩が小刻みに震えている。


ああどうすりゃいいんだ。


この様子からして、さっきの河井先生とのやりとりをすべて聞いてたんだろうな。


情けないけど、どこから説明したらいいのか途方に暮れてしまう。


「花、さっきのは」


「本当なの?私と付き合ってくれたのは先生に言われたから? 
仕方なく付き合ってくれてたの?」


振り返った彼女の瞳は潤んでいて、頬も赤い。


今にも泣き出しそうな顔を見たら胸が締め付けられるような気がした。


「ごめん、それは。うん、実はそうなんだ」


もっとうまい言い訳がいくらでも言えたかもしれないのに俺はすべて認めてしまった。
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