冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。
彼女には嘘はつきたくなかったから。


「そんな」


彼女はショックを受けたような顔で、瞬きをして涙がポロポロこぼれた。


「そっか、そうだよね。
最初から千景くんが私を好きじゃないことくらいわかってた」


辛そうに呟いて顔をゴシゴシこする。


「でも、そういう理由で付き合ってくれてたなんて……」


「花、俺は」


「私1人で浮かれててバカみたいだったよね」


彼女の涙を見たら、気持ちばかり焦ってどう話したらいいのかまるで言葉がうかばない。


「ごめん、今まで」


彼女が謝ることなんてないのに。


「違う、謝るのは俺の方で……だから、その……」


どういうわけか喉の奥がつまったみたいにうまく話せない。


「ううん、もういいから」


彼女は顔を隠しながら小さくしゃくり上げた。


「もういいってなにがだよ?」


「今までごめんなさい、迷惑かけて。もうこれきりに」
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