冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。
まだ、俺はなにもしていないから。


彼女に大切なことが、何も言えていない。


「うんうん、いいか、なるべくみっともなく泣けよ。
花ちゃんは優しいからきっとほだされるはずだ」


伊達はなぜか意地悪い顔をしてニッと笑う。


「……」


なんだか変なアドバイスだけど、一応ありがたく聞いておく。


でも待てよ。


伊達っていまだにフラれた彼女のことで未練たらたらじゃなかったっけ?


どこがやるだけやったら潔く諦められるんだよ?


まあいいけどさ。こっちもすっかりやる気に火がついたことだし。


的外れな助言もあったけど、こうして俺の縮こまっていた背中を押してくれたんだから。


伊達にはいちおう感謝しておこう。


いちおう、な。


「伊達、俺行ってくる」


俺は屈んで運動靴の靴紐を結び直しながらそう告げた。
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