冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。
千景くんがそのためにこんなに必死になってくれてるんだと思ったらたまらなくなった。


思わず愛しさが胸にこみ上げてきて、彼に強く抱きついていた。


一瞬だけ彼のこめかみのあたりにそっとキスをした。


誰にも見られないようにこっそりと。


「花」


「千景くん」


見つめ合うとクスッと笑いあった。


「ほんとこれ、キツイけど最高に楽しいな」


「うん」


「いくぞ、まだ諦めない」


そう言ってキッと前を見据える彼は今まで見た中でも1番凛々しい表情をする。


「私もっ」


彼は慎重に平均台を上がると速足で駆け抜けて最後は軽くジャンプした。


着地したらすぐにまた勢いよく走り出す。


「がんばれ千景くん」


「おう」


辛くても苦しくてもひたむきにつき進む彼が本当に素敵だと思った。


「あと少しだよ、千景くん」


彼を励まし続けた。
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