冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。
「でも弟さん達から緊急の連絡かも」


「今それどころじゃないから」


でも、どうしても気になったので上半身を起こした。


彼は不満そうな顔をして、それでも私を後ろから抱きしめてきた。


「花、やめたくない」


甘えるようにふてくされる彼が可愛い。


「うん、でもちょっとだけ。電話にでてあげて」


なだめるように彼の頬を撫でたら、しぶしぶうなずいてくれた。


「ああ」


千景くんはベッドからおりると、鞄の中からスマホを取り出した。


画面を見ると眉間に皺をよせて素早くタップする。


「なんだよ?達樹」


イライラしたような声。どうやら三男の達樹くんからみたい。


「は?いまから帰るって、おまえ早すぎるだろ。予定ではもっとゆっくり」


「いまどこだよ?あと何分後に帰るんだよ?」


「は?ふざけんなっ。おい、こらっ達樹」


彼は舌打ちしてからスマホをベッドわきに置いた。


どうやら向こうから通話を切られたみたい。


すると千景くんはガックリと肩を落として頭を抱えてベッドに寝転がる。


そっか、もうすぐ弟さん達帰ってきちゃうのか。


ちょっと残念な気もするけど……って私ったらなんてこと考えてるの。


「千景くん、仕方ないよ。今日はあきらめよ?」
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