冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。
「もう少しこのままでいたい……です」


彼女は恥ずかしそうに頬を染めて上目遣いに見つめてくる。


「いやもう手を離すよ。
さっきは先生が近づいてきたから、話を聞かれたくなくてキミを連れて走ったんだ」


「そっか、愛の逃避行ですね……やだっ、私ったら、キャッ」


嬉しそうに顔をさわっている。


とろけそうなフニャフニャの表情をしている。


おい勘弁しろよ。


「……」


愛の逃避行って。
何言ってんだ、こいつ。やっぱり変なやつ。


「あのさもう手を」


手を離したいんだけど彼女は強く握ったままその手を離そうとしない。


「あ、ごめんなさい……つい」


名残惜しそうにゆっくりと手を開く彼女。


俺はサッと手を引き、後ずさる。


もういいだろうと、彼女をここに置いて俺は普通学科の方へ走っていこうとした。


だけど彼女は名残り惜しげに口を開く。


「せっかく、お話できたのにもうお別れなんて寂しいですね」


「そう?でも授業が始まるからまた今度」


今度なんて1ミリも考えていないけど。

< 38 / 351 >

この作品をシェア

pagetop