冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。
おずおずともう一度声をかけようとしたら、雨城くんの左側を歩いていた男子がアッて顔をして私に気が付いてくれた。


「おい。千景、千景。あの子おまえの」


お友達は興奮したようにそう言って、雨城くんの肩をバンバンと叩く。


雨城くんはそこでようやく足を止めた。


「雨城くんっ」


すかさず、声を掛けたんだけど彼は瞬きをして怪訝な顔をする。


ええ?まさか私に気が付いていないの?


「……あっ、花か」


一瞬わからなかったみたいだったけど、ようやく気が付いてくれた。


うう、私ってそんなに存在感がないんだろうか。


「わるい、すぐにわからなかった」


彼はバツが悪そうにあやまる。


「ううん、平気平気。気にしないで」


なんでもないことのようにニコニコ笑った。


実はちょっとショックだったりするけど。
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