冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。
くぅ、この微妙なよそよそしさってなんなんだろ。


彼に近づくと、嬉しくて嬉しくて満面の笑みを浮かべた。


もしも私に犬の尻尾がついていたらグルングルン回していたと思う。


「雨城くんも移動教室だったんだ。偶然だね」


ああ。彼に昼休みの10分間以外にもこうして会うことが出来るなんて何だか得したような気分。


「花はつぎは移動なんだな」


「うん、音楽室に行くところだったんだ」


「そうか」
 

「……」


「……」

会話が続かない。
うわどうしよ、ここで話が終わっちゃった。


思いがけず、会えたのはいいけど会話の準備ができていなくて。


いつもは10分間で効率よく話せるように彼に聞きたいこととか、やりたいことをまとめてシュミレーションしてから会ってるんだよね。


こんな風にいきなり会うなんて想定外だから、ちょっと緊張してしまう。

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