夕焼け雲は優しさを受けて輝く【完】
黄昏のグラウンド
翌日、私は、いつも通り、夕焼け雲の下、野球部が練習するグラウンド傍を自転車で通り過ぎる。

その時……

ガシャン!!

フェンスが大きな音を立てた。

驚いた私が、とっさにブレーキをかけると、ほんの1メートル先のフェンスの内側に野球ボールが力なく転がっている。

視線を上げると、こちらに走ってくる人影。

金坂さん!

「恵理奈ちゃん! こんにちは」

優しい笑顔で話しかける彼は、月明かりの下で見るより眩しく見えた。

あの朱墨を一滴落としたような夕日のせいかな。

「え…と……
 こんにちは……」

たかが挨拶。
さっきまで、定食屋では、散々してきたのに、今は、なぜかうまく言葉が出ない。

「今から授業? 頑張ってね」

すると、金坂さんが言い終える前にグラウンドから大声が響く。

「おい! 金坂!
 そんなとこでナンパしてないで、さっさと戻れ!」

見ると、監督さんらしき人がバットを肩に担いで、こちらを睨んでいる。

「やっべ……
 じゃ、恵理奈ちゃん、また!」

金坂さんは、私の返事も聞かずに駆けていく。

私は、そのまま自転車を降りて、グラウンドを眺めながら、ゆっくりと校門に向かう。

金坂さんは、ノックされた球を追いかけて、懸命にグラウンドを走り回っていた。

金坂さんも頑張ってるんだ。

元気をもらった私は、そのまま教室に向かい、授業を受ける。

苦手な数学も、諦めることなく……
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