いつか咲う恋になれ
「この辺は冷んやりした空気だけで他の仕掛けはなさそうだね」

そう言いながら私達の後に来た生徒達がそのまま通り過ぎて行く。

セットの裏に来て分かったけど、この冷んやりした空気はドライアイスの仕業だった。

「いいんですか?脅かさないで」

生徒達が通り過ぎた後、私は小声で真尋先輩に言った。

「いいよ。疲れたからサボる。恐怖の悲鳴じゃなくて別の声出されるだけだし」

真尋先輩はそのまま私の隣に座り込んだ。もしかして外で待っている時に聞こえてきた『キャー』という声は真尋先輩に会えて嬉しさの悲鳴…というか歓声だったのか。

「迷惑かけてしまってすみません」

「迷惑なんて思ってないよ。ホラー系苦手なんだ?」

「はい。だからここに入るのもやめようかと思ったんですけど、肝試しを楽しみにしている小谷先輩に言えなくて」

「あっ、今コタっていうか……他の男の名前を聞きたくない、かな」

「どうしてですか?」

「どうしてかな?」

私が聞いたのに質問返しをされた。暗くて真尋先輩がどんな表情をしているのかはっきりとは分からないけど、優しい顔して微笑んでいるような気がする。

私達の恋愛ごっこは終わったはずなのに、まだ続いているようなこの感覚……

私は真尋先輩にとってどんな存在何だろう。

そんな事を思いながら、真尋先輩の隣にいた。

「真っ暗……」

少し沈黙が続いた後、私はポツリと呟く。

「怖い?」

「ふふ、大丈夫です。この暗闇の中、見上げたら満点の星とか周りにイルミネーションとかあったら素敵だなって想像してるんで」

真尋先輩は『そうだね』と言って私の肩を抱き寄せて頭をポンとした。

暗闇のおかげで頬が赤くなったのはバレないはず。

そして時間が経つと私も歩けるようになったので、そのまま体育館を出て自分のクラスに戻った。
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