いつか咲う恋になれ
「じゃあ長居するのも何だからそろそろ帰るね」

すると穂花ちゃんはガバッと勢いよく起き上がり、俺の袖のシャツをキュッと握る。

「ヤダ……まだそばに居て……」

熱のせいか潤んだ目からは涙がポロポロ流れている。不謹慎だけど、その穂花ちゃんの表情にドキッとしていた。

「うん……分かった。そばに居るから安心して。ちょっと水分補給してくるね」

そう約束して部屋を出た。そしてキッチンに置きっぱなしにしていた袋の中からリンゴと一緒に買ったペットボトルの水を取り出し勢いよく飲む。

「ヤバイ……完全に理性が飛ぶところだった。どうしたんだ、俺」

ペットボトルの蓋をしめてその場にしゃがみ込み下を向く。ハァっと息を吐き出し自分の理性を整えた。

少し落ち着くと完全に座り込み、上を見ながら自分の前髪をくしゃっとする。

こんな感情初めてだ。対処法が分からない。でもこのまま病人の穂花ちゃんを一人にするわけにもいけないし、それに……そばに居るって約束したからにはちゃんと守らないと。

穂花ちゃんの部屋に戻ると薬が効いてきたのか、既に穂花ちゃんは寝ていた。俺は少し安心する。

熱の確認をするため、自分の手を穂花ちゃんのおでこに当てた。

熱い。まだ結構熱あるな。買ってきた冷えピタをそっとおでこに貼る。すると少し穂花ちゃんの目が開いて俺の方を見た。

「起こしちゃった?ごめん」

「何か冷たくて気持ちいい」

そう言ってニッコリと微笑んだ。

「ちゃんとここに居るから、ゆっくり寝てね。おやすみ」

俺の言葉を聞くと『うん』と言ってまた目を閉じた。
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