異世界猫。王子様から婚約破棄されましたが、実は聖女だったのでまったりもふもふ優しく騎士様に愛されます
 それからのあたしはいろいろ考えちゃって正直お茶会でなにが話されたのかしっかり覚えていない。

 にこにこ、にこにこと表情だけは取り繕って、言われることに適当に相槌をうってた。

 アーサー、ううん、アンジェリカが主に話してそこにお母様が答えて。

 あたしはひたすら、そのアーサー、ううん、もういい加減認めよう、アンジェリカの顔を眺めていたのだ。



 なんだかダブルで失恋したみたいなそんな気分。

 初恋の薔薇園の王子様。

 そしてこの間のクローディアとの会話で改めて自覚した、アーサーへの恋。

 ほんとうは薔薇園の記憶はマリアンヌのものな筈なのに。でも。あたし、自分の初恋ってそんなふうに記憶が書き換わってる?

 ううん、違う。

 たぶんこれはマリアンヌの感情。

 当時のマリアンヌの感情が、あたしの中にいて、そんでもって自分の感情と混ざった、のかな。

(そうかもしれませんね。わたくしも茉莉花ちゃんの感情に引き摺られたのかなんだかアーサーの事好き? になりかけてましたもの)

 そっか。ごめんねマリアンヌ。

 あう。でも。

 なかなか心の整理がつかない。

 だってね。

 好きな人が女性だったなんて。

 そんなのあり?

 もう、無理無理! って思う気持ちと、それでもやっぱり好き、って気持ちがあたしの中でせめぎ合って。

 ああ。もうどうしていいのかわかんないよ。

 時々、こちらを見てあたしのこと気遣ってくれるアンジェリカ。

 ニコって微笑みなんだかきざなセリフを零すところなんか以前と全然変わってないのに。どうして?

 それまでだったら感じてたはずの、嬉しいって感情が湧かない。

 やっぱり、女性だって思っちゃったから? 認識が変わっちゃったから?



 それにしても。

 目の前にいるアンジェリカはアーサーだった時となにも変わらない。

 髪を下ろし、ちょっと薄く化粧をして。

 そんでもってドレスを着てるけど。

 でも、身長も体型も変わってない。

 ちょっと胸がふんわり膨らんでいる気がして、ああやっぱり女性なのかってそんなふうに思っちゃうけれど。

 レティーナ様みたいにマジカルレイヤーで性別まで変えるような魔法を使ってるわけでも無さそう。


 ほんと、子供の頃の薔薇園の王子様がそのまま成長したような、そんな感じのアンジェリカ。


 はうう。あたし、どうしたらいいの?

 この気持ち、どこにやっちゃえば解決する?

 ああ。悲しい……。




「浮かない顔、してるねマリカ。ねえ、今から薔薇園に行かない? 昔遊んだあの薔薇園に」

 はう。アンジェリカがそう言ってこちらを覗き込むように見て。って近いよ? アンジェリカ。

 あたしは顔を真っ赤にして、ただうなづくだけしか出来なかった。
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