異世界猫。王子様から婚約破棄されましたが、実は聖女だったのでまったりもふもふ優しく騎士様に愛されます
「失礼しましたアンジェリカ様。いきなりで驚かせてしまって」
とりあえずそう謝って。
「わたくし、マリアンヌ・ヴァリエラントでございます。この姿でお会いするのはたぶん幼少の折以来でしょうか?」
「君は……、マリアンヌなんだね? マリカじゃなくて」
「わたくしと茉莉花は全ての記憶と魂を共有しております。でも。わたくしはわたくし。茉莉花はマリカの自我がちゃんとございますの」
「うん。なんかわかるよ。君はマリアンヌでマリカじゃ無いって。そう感じる」
「そう、ですね……」
「マリカは? マリカはどうしちゃったの?」
「マリカは……、泣いておりますわ……。心の奥に潜ってしまいました……」
「そう……」
複雑な表情のアンジェリカ様。
「僕も……、君たちみたいにもう一人の自分がいたら、きっと良かったのかもね……」
髪を下ろして見た目は女性的ないでたちなのだけれど、その佇まいはどう見てもアーサーのもので。
「あなたは、アーサー、なのですか?」
そう聞いてみた。どう考えてもこの目の前にいる人物がアンジェリカという少女には見えないのだ。
「うん。フランソワ様の前ではちょっと取り繕ったけど、僕はアーサーだよ。誰がなんと言おうともね」
「そう、なのですか。ううん、そう、なのでしょうね……」
「だから、さ。僕は女性の振りがちゃんとできる、そんなほんとのアンジェリカの人格が欲しかった、な」
はう。
それって……。
ううん、でも……。
「お辛いの、ですか……?」
「そんな事も、ないよ。今はけっこうアーサーでいられる時間も取れるしね。お母様もわかってくれてるし」
「もしかして、うちのお母様もアーサー様のことはご存知なのでしょうか?」
アンジェリカ、ちょっとほおに手を当てて頭を傾げる。
ほんとこうした姿形だけなら美少女にしか見えない。
「驚いた様子は感じられなかったから、知ってたかもね? まあうちのお母様がなんでも話してるだろうし。フランソワ様のことは本当に信頼してるからね」
そうかも。お母様とジュディ様、本当に仲の良い、信頼しあってる関係に見えましたし。
あ、アンジェリカ様のお顔にさしてたちょっと暗い影が消えた?
お顔に笑みが戻ってる。なんだか少し安心した。
さっき、アンジェリカ様にはわたくしと茉莉花は別の自我と断言してみせたけれど。
本当のところ、これだけキオクとレイスを共有してると自我だって融合しかけてる部分もあるんだよね。
そう。あたしはマリアンヌ、だけど、マリカが混ざってる。
こうした思考だって常に共有してるんだよ? それはもうしょうがないことだと思ってる。
今、あたしの中の半身は、悲しみの海に浸ってる。奥に潜り込んでなかなか出てきそうにない、かぁ。
アンジェリカが好きって漠然とした感情は今のあたしにもある。
でも、あの子のようにそれが悲しくて耐えられないってほどでもは、ないかな。
そんな違いはまだあるんだけどね。
お互いに心で会話するときは、あえてあたしはマリアンヌとして、彼女は茉莉花として振る舞うようにしてたけど。
そうでもしないと、わたくし、が、消えてしまいそうでちょっと怖かったのもある。
いろいろお話しして落ち着いたら喉が乾いてきた。
そういえば出がけに侍女さんに水筒持たされてた。冷やした紅茶が入ってるみたい。
二人で、飲もうかな。
「アンジェリカ様、先ほど侍女たちよりいただいた紅茶があるのですけど、ご一緒しません?」
「ああ、ありがとう。そういえば喉、渇いたね」
あたしはまずアンジェリカさまに水筒を渡す。ふたがコップになってる水筒だったらよかったけどそうじゃなかったから。
まず彼女がごくっと飲んで。
そしてあたしにも渡してくれた。
ああ。茉莉花だったらどうしたかな。恥ずかしくて飲めなかったかな。そんな事を想像しつつ水筒に口つけた。
とりあえずそう謝って。
「わたくし、マリアンヌ・ヴァリエラントでございます。この姿でお会いするのはたぶん幼少の折以来でしょうか?」
「君は……、マリアンヌなんだね? マリカじゃなくて」
「わたくしと茉莉花は全ての記憶と魂を共有しております。でも。わたくしはわたくし。茉莉花はマリカの自我がちゃんとございますの」
「うん。なんかわかるよ。君はマリアンヌでマリカじゃ無いって。そう感じる」
「そう、ですね……」
「マリカは? マリカはどうしちゃったの?」
「マリカは……、泣いておりますわ……。心の奥に潜ってしまいました……」
「そう……」
複雑な表情のアンジェリカ様。
「僕も……、君たちみたいにもう一人の自分がいたら、きっと良かったのかもね……」
髪を下ろして見た目は女性的ないでたちなのだけれど、その佇まいはどう見てもアーサーのもので。
「あなたは、アーサー、なのですか?」
そう聞いてみた。どう考えてもこの目の前にいる人物がアンジェリカという少女には見えないのだ。
「うん。フランソワ様の前ではちょっと取り繕ったけど、僕はアーサーだよ。誰がなんと言おうともね」
「そう、なのですか。ううん、そう、なのでしょうね……」
「だから、さ。僕は女性の振りがちゃんとできる、そんなほんとのアンジェリカの人格が欲しかった、な」
はう。
それって……。
ううん、でも……。
「お辛いの、ですか……?」
「そんな事も、ないよ。今はけっこうアーサーでいられる時間も取れるしね。お母様もわかってくれてるし」
「もしかして、うちのお母様もアーサー様のことはご存知なのでしょうか?」
アンジェリカ、ちょっとほおに手を当てて頭を傾げる。
ほんとこうした姿形だけなら美少女にしか見えない。
「驚いた様子は感じられなかったから、知ってたかもね? まあうちのお母様がなんでも話してるだろうし。フランソワ様のことは本当に信頼してるからね」
そうかも。お母様とジュディ様、本当に仲の良い、信頼しあってる関係に見えましたし。
あ、アンジェリカ様のお顔にさしてたちょっと暗い影が消えた?
お顔に笑みが戻ってる。なんだか少し安心した。
さっき、アンジェリカ様にはわたくしと茉莉花は別の自我と断言してみせたけれど。
本当のところ、これだけキオクとレイスを共有してると自我だって融合しかけてる部分もあるんだよね。
そう。あたしはマリアンヌ、だけど、マリカが混ざってる。
こうした思考だって常に共有してるんだよ? それはもうしょうがないことだと思ってる。
今、あたしの中の半身は、悲しみの海に浸ってる。奥に潜り込んでなかなか出てきそうにない、かぁ。
アンジェリカが好きって漠然とした感情は今のあたしにもある。
でも、あの子のようにそれが悲しくて耐えられないってほどでもは、ないかな。
そんな違いはまだあるんだけどね。
お互いに心で会話するときは、あえてあたしはマリアンヌとして、彼女は茉莉花として振る舞うようにしてたけど。
そうでもしないと、わたくし、が、消えてしまいそうでちょっと怖かったのもある。
いろいろお話しして落ち着いたら喉が乾いてきた。
そういえば出がけに侍女さんに水筒持たされてた。冷やした紅茶が入ってるみたい。
二人で、飲もうかな。
「アンジェリカ様、先ほど侍女たちよりいただいた紅茶があるのですけど、ご一緒しません?」
「ああ、ありがとう。そういえば喉、渇いたね」
あたしはまずアンジェリカさまに水筒を渡す。ふたがコップになってる水筒だったらよかったけどそうじゃなかったから。
まず彼女がごくっと飲んで。
そしてあたしにも渡してくれた。
ああ。茉莉花だったらどうしたかな。恥ずかしくて飲めなかったかな。そんな事を想像しつつ水筒に口つけた。