異世界猫。王子様から婚約破棄されましたが、実は聖女だったのでまったりもふもふ優しく騎士様に愛されます
 気がついた時

 あたしはベッドに寝かされていた。

 心配そうに覗き込むアーサーの顔がそこにあった。

「良かった……。マリカ……」

「アーサー、ごめんね心配かけちゃって」

「魔導師教会のハクア導師が君を抱いて現れた時はほんと驚いたよ」

「アリアは? それとハクアは?」

「アリアも無事。隣の部屋で寝てるよ。君が助け出したんだって? ハクア導師に聞いたよ」

 ハクア導師、か。

 彼は今表向きはそう名乗っているってことなのかな。いくらなんでも魔導師の塔に大魔導師イクシア様が居たのなら、そう知られている筈だし。

「今回の襲撃犯も捕まえたからって。君は魔力の暴走で気絶しただけで怪我は無いってそう彼が言ってたけど……」

 アーサーはあたしの額、そしてほおから喉元に手を当てて。

「熱はもう下がったみたいだね。良かった」

 そう微笑んだ。



 ハクアはあたしをアーサーに託すと、魔導師教会に所属していた人間が今回の騒動に加担した事を詫び、彼らはあたしを拐おうとしていた事、それ以上の詳しい事はこれから取り調べる事などを話しそのまま帰って行ったらしい。

 その事を話すアーサーはちょっと複雑な顔をしてた。

 そうだよね。

 彼らはあきらかにアーサーを狙っていた。

 それがどういう意味を持つのかわからないけれど。アーサー自身には心当たりがあるのだろうし。



 どうしよう。それ以上の事は口をつぐんだアーサーに、あたしは詳しく教えてって聞くべきなのか。

 心配だから。気になるから。ほんとは話して欲しくてしょうがないんだけど。

 躊躇われるんだよね。アーサーのそんな顔を見てると。






 旅館の壁はどうやらハクアが直していってくれたらしい。流石に大魔導師様って言ったらいいのかな。これくらいの修復も彼にかかればたいした事はないのかも。今のあたしには無理だけど。

 この世界の事も、ギアの事も、アリシアの記憶を思い出したからと言って全て理解できた訳じゃないもの。

 なんだかもどかしいな。


 そう。アリシアの記憶。

 これは、魂の記憶? 前世の記憶?

 あたしは……。

 遥かな昔。

 あたしはアリシア・ローレンという名前で、小説家だった。

 最終戦争と、その後の地球再生のための方舟プロジェクト。

 そんな時代に生きたあたしはそのイシスプロジェクトの最初の被験者となってコールドスリープカプセルで眠りについたのだ。

 ハクアは、そんな眠っているあたしたちのメディカルチェックと定期的なリハビリ等の為、シェルターに残った唯一の人。
 唯一の人間のスタッフ。

 あたしと彼は友人、だった、よね?

 なのに彼、あたしの事女神って……。

 どういう事だろう?
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