異世界猫。王子様から婚約破棄されましたが、実は聖女だったのでまったりもふもふ優しく騎士様に愛されます
 あたしは真竜、シルバーエレメンタルクリスタルの背中に乗って暴風が吹き荒れる空を飛んでいた。

 シルバーエレメンタルクリスタル、通称ドラコの発するマナウエーブが周囲を流れるように覆って居てくれるお陰でこの暴風雨の中全く濡れることもなく快適に飛んでいられる。

「ありがとうね。ドラコ」

 あたしは掴まっているドラコの首元をさすって、そう囁きかけた。

「クォーン」

 小さな声で彼もそう答えてくれた。




 塔の聖女の間まで到着したあたしとお母様。

 もう既に何人かの貴婦人方が集まって、祭壇の巨大な魔法結晶に向かって祈りを捧げている最中だった。

 うん。

 貴族の女性には貴族の女性としての役目がちゃんとあるの。

 この祭壇の魔法結晶は大聖女レティーナ様の長年の祈りが篭っている。

 普段は王都の周囲を魔が入り込まないように結界をはって食い止めている。

 でも、こんな厄災の時には……。

 もっと大掛かりな力のバリアで王都を護るのだ。

 もともと貴族の女性はその血の濃さゆえか生まれつき聖なる力を持った者も多い。

 別段聖女修行などして居なくとも、こういう危機に至っては皆の祈りの力を集めこの魔法結晶に込めることでレティーナ様の補佐ができる。

 男性陣がその力で人々を街を守るのと同じく、女性陣にもこうした役割がちゃんとある。

 それはそれで、とっても素敵なことだなってそうはおもうのだ。あたしだってね?



 だけど。




 あたしはレティーナ様を探して彼女の個室に向かった。

 お母様は他の婦人達と祈りの輪に参加したけどあたしはちょっと大聖女様に話があるからと抜けて。

 うん。だめなの。

 あたしは祈るだけじゃなくて、みんなを護りたいの。



 ハクアはもうとっくに魔道士部隊を引き連れマクシミリアン王子の国軍に合流したのだという。

 ここにはもう女性しか残って居なくって。

 それでもだよ? たぶん騎士団に所属している聖女達はみなそんな男性陣の事を護りに従軍しているはず。

 あたしに声がかからなかったのは、たぶん今回の件があまりに危険だから……、フェリス様が公爵令嬢であるあたしを連れていくのを渋ったのかも? そうは思う。


 お部屋の前で深呼吸して。


「レティーナさま。あたしです。マリカです。お話があるんです。入ってもいいですか?」

 そう声をかけて。

「ああ、マリアンヌさま。どうぞ」

 そう扉をあけてくれたレティーナさま。

 お部屋に入るとそこにはアリアも居て。

 あれ? アリア、衣装が魔法少女みたいだよ?

 真っ赤なふわふわなミニドレス。レースがいっぱいで胸にはハートのブローチまで。

 ちょっとびっくりして言葉に詰まる。

「マリカさん。あたし、戦って来ます。やっと力の使い方、わかってきたの。だから……」

 ああ。この姿、やっぱりマジカルレイヤーかな?

 彼女の心の奥底に眠って居た魔法結晶を核にマジカルレイヤーで彼女自身のマトリクスを上書きしてある? そんな感じ。

 表面に溢れているマナ、魔力が膨らみ上がってる。

「え……、でも……」

 アリアは怖がってたよね? 戦いなんか、似合わない子だと思ってたのに。

「彼女はこのままこうしているのは嫌だって、皆を護れる力が自分にあるのなら、なんとかしたいって言ってきたのです。わたくしはその彼女の心、決意を尊重しますわ」

 あう。レティーナさま……。

 あぶないよアリア……、って、ううん! 

 あたし、バカだ。

 あたしだっておんなじ気持ちだったのに!

「あたしも行きます! あたしもみんなを護りたいの!」

 アリアが笑顔になってこちらを見る。

 ふふ。

 うん。二人で頑張って、みんなを助けよう?

「ありがとうございますマリアンヌさま。では、あなた達にドラコを託しましょう。真竜は紅竜よりは攻撃力で劣りますが、守備力では凌駕していますから。貴女たちの力になるでしょう」




 そうしてあたしは、ううん、あたしたちはドラコに乗って空を飛んでいる。

 もう暴風中心はすぐそこ。

 真っ赤に光るその暴風の眼がすぐ目の前に迫ってきた。
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