異世界猫。王子様から婚約破棄されましたが、実は聖女だったのでまったりもふもふ優しく騎士様に愛されます
さよならマリカ。
戻ってきた場所は、あたし達が時空を跳んだあの場所、その直後だった。
周りの人には一瞬消えてまたすぐ現れたようにしか見えなかっただろう。
茫然とした顔でこちらを見る、マクシミリアン。
背後には大勢の騎士様達。お父様もいる。
あれだけ酷く吹いていた雨風は収まり、雲間から朝日がくっきり見える。
ああ。戻って来れた。
それが嬉しい。
ゆっくりと地面に降り、つないでいた手を離す。アーサーも無事。二人一緒に無事この世界に帰って来れた。
「アンジェリカ、なのか?」
あう。マクシミリアン。とうとう気がついちゃった?
「ええ。そうですお兄さま」
アーサーも、声もアンジェリカに戻してそう答える。
「まさかそんな男装をして騎士団に紛れこんでいるとはな。父上は知っているのか?」
「騎士団にいることは知っているはずです。お母さまが話しているはずですから。まあ、男装していることまでは知らないかもですね」
怒り出すかと思ったマクシミリアン、ちょっと諦めたような顔になって。
「あまり危険な真似はしてくれるな。仮にも女性なんだ。心配になるだろ?」
そう、苦笑した。
「ごめんなさいお兄さま。まさかお兄さまからそんな風に心配されるとは思ってなくて」
「たった一人の妹なんだ。心配くらいするさ」
「そうですか……。ありがとうございますお兄さま……」
マクシミリアンはくるっと振り返ると大勢の騎士が待つそこまで戻って行った。
去り際、「マリアンヌ……、無事でよかった……」と、そう呟いたのが聞こえた。
アーサーは複雑な顔をしてたけど。
まぁそうだね。しょうがないね。
マクシミリアン自身がアーサーを排除しようとか思っているわけじゃないのだろう。
そんな風には見えなかった。さっきの会話だとね。
大人の世界、まだまだ複雑なのかな。そうも思う。
「僕らも行こう」
そう、吹っ切れたような顔をしたアーサーがあたしの手をとって歩き出す。
お父様がこっちを見てる。ああ、今にも走ってきてあたしに抱きついてくる? そんな表情だ。我慢してる感じ?
ふふ。
もうすっかり朝日が明るくあたりを照らしている。穏やかな風。雲もどんどんはれていく。
騎士の皆は結構どろどろになってるけど笑顔だ。
ねえ。茉莉花。あたし皆を助ける事ができたんだよね? 良かった……。
はう。
反応が無い。
茉莉花、マリカ? 茉莉花ちゃん?
心の中で何度も呼びかけるけど。だめ。
——茉莉花って、あなたの事じゃないの? マリアンヌ?
え? アウラ?
——あなたの魂《レイス》の中には、わたしとかドラコとかそんな魔・ギアしか居ないよ?
そっか。
薄々はそう感じてた。
っていうか、認めたくなかった。
マリカの存在が薄くなっていってるのは感じてた。ううん。あたしの中に自分がマリカだって自意識がどんどん増えて。
みーこがマリカの中に溶けて混ざったように、魂《レイス》の中に沈んだマリカはだんだんと溶けてあたしに混ざっていった。
それでなくとも全ての記憶と感情、思考まで共有してたのだ。あたしの中にマリカが溶けるかもってなんで思い浮かばなかったのか。
ううん、違うな。
ほんと、認めたくなかっただけだあたし。
いつまでもこのままマリカと二人でこの身体を共有して、そんな生活がずっと続くと思って。
消えたくない。
そう思ったのはあたしだったのかマリカだったのか、もうわからない。
でも。
消えたのじゃなくて、あたしはマリアンヌであって、マリカ、なのだよね。
うん。消えたのじゃなくて……。
さよなら、マリカ。
あたしはそう呟いて。手を繋いでくれているアーサーの腕を胸のところに絡めて抱いた。
この気持ちだけは、茉莉花の残してくれたものだから。
「だーい好き。アーサー」
「うん。僕も大好きだよ。マリカ」
あたしは頭をこつんとアーサーの肩にくっつけて。
そのままほおをすり寄せた。
FIN
周りの人には一瞬消えてまたすぐ現れたようにしか見えなかっただろう。
茫然とした顔でこちらを見る、マクシミリアン。
背後には大勢の騎士様達。お父様もいる。
あれだけ酷く吹いていた雨風は収まり、雲間から朝日がくっきり見える。
ああ。戻って来れた。
それが嬉しい。
ゆっくりと地面に降り、つないでいた手を離す。アーサーも無事。二人一緒に無事この世界に帰って来れた。
「アンジェリカ、なのか?」
あう。マクシミリアン。とうとう気がついちゃった?
「ええ。そうですお兄さま」
アーサーも、声もアンジェリカに戻してそう答える。
「まさかそんな男装をして騎士団に紛れこんでいるとはな。父上は知っているのか?」
「騎士団にいることは知っているはずです。お母さまが話しているはずですから。まあ、男装していることまでは知らないかもですね」
怒り出すかと思ったマクシミリアン、ちょっと諦めたような顔になって。
「あまり危険な真似はしてくれるな。仮にも女性なんだ。心配になるだろ?」
そう、苦笑した。
「ごめんなさいお兄さま。まさかお兄さまからそんな風に心配されるとは思ってなくて」
「たった一人の妹なんだ。心配くらいするさ」
「そうですか……。ありがとうございますお兄さま……」
マクシミリアンはくるっと振り返ると大勢の騎士が待つそこまで戻って行った。
去り際、「マリアンヌ……、無事でよかった……」と、そう呟いたのが聞こえた。
アーサーは複雑な顔をしてたけど。
まぁそうだね。しょうがないね。
マクシミリアン自身がアーサーを排除しようとか思っているわけじゃないのだろう。
そんな風には見えなかった。さっきの会話だとね。
大人の世界、まだまだ複雑なのかな。そうも思う。
「僕らも行こう」
そう、吹っ切れたような顔をしたアーサーがあたしの手をとって歩き出す。
お父様がこっちを見てる。ああ、今にも走ってきてあたしに抱きついてくる? そんな表情だ。我慢してる感じ?
ふふ。
もうすっかり朝日が明るくあたりを照らしている。穏やかな風。雲もどんどんはれていく。
騎士の皆は結構どろどろになってるけど笑顔だ。
ねえ。茉莉花。あたし皆を助ける事ができたんだよね? 良かった……。
はう。
反応が無い。
茉莉花、マリカ? 茉莉花ちゃん?
心の中で何度も呼びかけるけど。だめ。
——茉莉花って、あなたの事じゃないの? マリアンヌ?
え? アウラ?
——あなたの魂《レイス》の中には、わたしとかドラコとかそんな魔・ギアしか居ないよ?
そっか。
薄々はそう感じてた。
っていうか、認めたくなかった。
マリカの存在が薄くなっていってるのは感じてた。ううん。あたしの中に自分がマリカだって自意識がどんどん増えて。
みーこがマリカの中に溶けて混ざったように、魂《レイス》の中に沈んだマリカはだんだんと溶けてあたしに混ざっていった。
それでなくとも全ての記憶と感情、思考まで共有してたのだ。あたしの中にマリカが溶けるかもってなんで思い浮かばなかったのか。
ううん、違うな。
ほんと、認めたくなかっただけだあたし。
いつまでもこのままマリカと二人でこの身体を共有して、そんな生活がずっと続くと思って。
消えたくない。
そう思ったのはあたしだったのかマリカだったのか、もうわからない。
でも。
消えたのじゃなくて、あたしはマリアンヌであって、マリカ、なのだよね。
うん。消えたのじゃなくて……。
さよなら、マリカ。
あたしはそう呟いて。手を繋いでくれているアーサーの腕を胸のところに絡めて抱いた。
この気持ちだけは、茉莉花の残してくれたものだから。
「だーい好き。アーサー」
「うん。僕も大好きだよ。マリカ」
あたしは頭をこつんとアーサーの肩にくっつけて。
そのままほおをすり寄せた。
FIN