一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
『Zufällig als Gegenmaßnahme gegen Abhören
(万が一だが、盗聴対策にね)』

 ドイツ語での話したり記載するのも、その一環だという。
 プライベートな空間でも、そこまで気をつかう彼が切ない。

 家族同士ではセカンドネームで呼び合っているのだという。
 ネイトは片目をつぶってみせた。

『Nicht viele Leute nennen mich Nate, auch Sie
(僕をネイトと呼ぶのは、君を含めても多くはない)』

 パーティなどで彼をどう呼ぶかで判断しているのだという。
 私、それだけのトップシークレットを教えてもらってたんだ。
 自分が思っていたより彼の中に入り込んでいることに、誇らしさを覚えた。

「そういえばyokyoとはなんだ?」

 思い出したように聞かれた。
 少し考えて、余興のことではないかと気づく。
 entertainmentだと教えれば、納得していた。

「あのときのしかめ面は、意味がわからなかったからなのね」
「僕が君にそんな顔をしていた?」
「ええ。それで私は疑われたままなんだと寂しくなったの」
「あのときは僕を捨てた君が憎かった」
「私は悲しかった」

 見つめ合ううち、唇が何度も離れては触れて、ネイトの私を抱きしめている手の動きがあやしくなった。
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