一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
 固唾をのんで見守っていると、ネイトがノートパソコンを起動した。
 キーの上を指が素早く、けれどなめらかに動く。
 見るともなしに見ていて、鍵盤を叩いているときを思い出した。
 長く、男の人にしては細い指が信じられないくらいの力強さを秘めている。
 綺麗だな。
 この指がううん、彼が紡ぎ出す音楽に浸りたい。
 また、セッションしたい。

 不埒にもキスしたいな、と思う。 

 ネイトがにらんでいると、携帯の画面が光った。お兄様からの『わかった』との返信だった。
 なぜか、ネイトに口を塞がれた。
 どうしたの、と見上げるも厳しい表情で見つめられる。お兄様への返信は。

『I will see it as Rena from now on
(これから玲奈と見る)』

 なにを見るんだろう。
 ネイトはメールソフトを立ち上げていた。彼がイヤホンを片耳につけたあと、もう片方を渡されたので自分の耳に装着する。

 お兄様から、アドレスが添付された英語のメールが届いている。
 とん、と画面を示されたから、読んでいいのだろう。
 解読が間に合わず、ネイトがアドレスにカーソルを合わせる。

 始まった画像は地下駐車場だった。私たちが専用のエレベーターに入るところが映されている。
 被さってきた声は、私たち二人のもの。

 クロスブレイドの売り上げの悪さを嘆くネイト。
 協力を申し出る私に、礼を言う彼。
 サクラによる購買と扇動について説明する私。

 このエクセレント・スウィートで交わされた会話だった。
 でも違う、そんなふうに言ってない!

 音の流れが不自然で、悪意の元に編集されているのは明らかだった。
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