一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
 多賀見は代々、患者の顔が見える薬作りを行なっている。
 MRやドラッグストアを回る営業が多いのは、薬を売るより、どんな薬が求められているのかを知るためだ。
 
 デフォルトの調合法と一回の使用量の限界値を定めた服用法を指示する処方は、勿論ある。
 そのうえで多賀見は、個々の体格・症状に応じて調整する。
『面倒』と言われてしまうこともあるが、多賀見の薬を愛用してくださってる多くの方が『自分に合った服用法がわかって嬉しい』と評価する。
 私達は、その方達のために薬を作っている。

 大量に製造すれば、安い値段で人々に手に渡る。もしかしたら病気自体を撲滅出来るかもしれない。
 けれど……私達の目の届かないところで副作用が起こったとき、サポートが遅れてしまう。
 多賀見が海外進出より国内の販路を厚くしているのには、そういう理由がある。

「汎用性の高い薬を安定して供給するのは、有意義よね」

 泣きそうな顔をしていたのかな。
 ネイトは、私の額にキスしてくれた。
 慰めるように、まぶたの上や頬に。
 そして唇にも。
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