一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
「その2。ネイトによる、我が社の買収はなし」
「客観的に言って、多賀見にはクロフォードの傘下に入ることによって生じるデメリットは、ない」

 ネイトに断言されたけど、私の返事は濁っていた。

「そう……なんだけど」

 多賀見家以外の経営陣は大喜びしそう。
 
「心情的な問題なんだね?」

 ネイトの手が、膝の上で握りこぶしになっている私の手をなだめるように撫でる。
 
 私が裏切ったと彼が思い込んでたときの、懲罰的な意味合いは両思いだとわかった時点で無くなった。
 シンプルに優良企業同士の合併となるから、クロフォードにもデメリットはない。
 でも、彼は有り余るほどの富を手にしているから、利益優先で言っているわけではない。
 あくまで、多賀見を思いやっての言葉に過ぎないのだ。

 ただ。

「お祖母様や、お父様がなんて言うかな……」
 
 多賀見命の人たちなのだ。
 なぜ、そんなに必死かといえば。自社の従業員だけではなく、患者様と日本の自然を守っている自負があるから。

 伝統がある企業はどこでもそうだろうけど、多賀見も代々のご領主、時代が変わってからは国や戦争に翻弄された。
 誰にも口を出させないかわりに、誰にも頼らない。
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