一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
 それと。
 廃藩置県のあと、当代が近江の薬種問屋に奉公した際に会得したのが、『三方よし』
 売り手よし、買い手よし、商うことで社会よし。多賀見製薬の根幹を成していると言っていい。

 代々の当主はその気風を貫いてきた。
 いい話だからって、あの二人が首を縦に振るかはわからない。

 私はネイトを見上げた。
 彼はずっと私をみつめている。
 
「TOBの話は、犯人の盗聴データにはなかったんでしょう?」
 
 人の口に戸は立てられない。
 聞かれていれば、誰かがリークする。
 聞いてた百人のうち一人が伝えれば、次の百人に伝わっていく。

「ああ」

 もっともネイトが一言発すれば、クロフォードが多賀見をTOBすることについて、世界中に同時発表されるまでになっていたらしい。

「リークされてたら、どうなってたかな……」

 多賀見の株価が高騰するのか急落するのかわからないけれど、市場が荒れるのは必至。

 積極的に吸収されたがっている企業にとって、多賀見を羨ましいとしか考えられないだろう。
 妬み嫉みから営業妨害もあるだろうし、第二の多賀見を狙って製薬業界も嵐の中に放り込まれそう。

 薬に頼っている患者様を不安にさせたくない。
 出来れば、穏便にすませたい。
 
「わかった」
 
 つっかえながらも訴えれば、ネイトが微笑んだまま私の唇にキスした。
 ……触れるだけでは終わらない。
 下唇を吸われて引っ張られて歯を立てられた挙句、舌がツンて唇のあいまに入ってきた!
< 142 / 224 >

この作品をシェア

pagetop