一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
「どうした?」
「嬉しいの。でも、ネイトに散財させたいわけじゃないのに」

 頬に手を添えられた。
 怒るべきなのかわからなくて多分、私は泣き笑いみたいな顔をしている。

 ネイトはちらりと運転席を見た。
 客席と運転席のあいだにはシールドが有り、レースのカーテンで視界を遮っている。
 いけない!
 はっと口を噤めば、大丈夫と微笑んでくれた。

「運転手はセキュリティチームの一人だ。聞かれても問題ない」

 ほ。

「無理させているのに、僕が玲奈に出来ることは多くはない。そして君は、なにも求めてこない」
「そんなことない」

 貴方の愛と信頼が欲しい。
 多分、世界中で一番強欲な願い。

「愛する人を飾って、周囲の人間にしらしめたい。僕は、わがままだ」

 真剣なまなざし。
 ネイトは権力やお金、人を意のままに動かせるけど、心はどうにも出来ないって知っている。
 私と彼とは、住む世界が違いすぎる。
 互いに理解しててなお、ネイトは私に共に歩んでほしいと願っている。

「僕の大事な玲奈。これくらい、大目に見てくれないか」

 ネイトが甘やかな目で乞うてきた。

「今は君を婚約者として公に出来ない。なにより、ヴューラー家の当主夫人の証を、君の指に嵌めることを許されないのだから」
「う」

 それを言われると。
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