一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
 低いささやきに彼を見上げると、ネイトの瞳にも限りない憧れがあった。
 ここで今日、彼のお母様が単独のコンサートを行う。
 ネイトが言うとおり、ドイツがウイーンが。ううん、世界中が同じ時代に生まれたことを幸運に思う不世出の音楽家。
 誇らしい気持ちと、他の気持ちと。
 ネイトの感情は私より複雑だろう。

 でも。
 私もだけどネイトもきっと、音楽を志す人たちに拍手を送るのはやめない。
 心に棘がささったまま、私たちは生きていくことを決めたの。

「行こうか」
「ええ」

 ボックス席は舞台に近い順からナンバーがふられている。
 奇数は左翼、偶数は右翼。
【2】と金文字を打ってあるドアを係の人に開けてもらう。
 ドキドキ。
 検索しても、とりわけ【1】【2】のボックス内の画像は出てこない。
 どんな空間が待っているんだろう。
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