一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
「こうなることは、わかっていたよ」

 お父様がぐすぐす鼻を鳴らしながら言う。

「君たちったら、社長室で痴話喧嘩を始めてさ……」

 ちっ、ち、わっ!

「CHIWAGENKA?」

ネイトに聞かれたけれど、答えづらい。

「Filthy quarrel」

 お父様が真顔で説明した。
 おおう……。

「違っ……!」
「わかりましたか」

 ネイトがぐいと私を引き寄せる。

「あれでバレてないと思う君たちが変なんだよ。ネイト君は玲奈しか見てないし、離すまいとしてた。玲奈は玲奈で『結婚します』って嬉しそうに即答してるし……、彼に縋りつかんばかりだったよ?」

 そんなだったっけ? 我慢してたつもりなんだけど。
 ネイトも少し顔を赤らめている。

「『話しあいは済んだ』んだね?」

 お父様の言葉に、二人してうなずいた。

「では私たちが何も言うことはないな」
 
 開演一〇分前を告げるチャイムが響いた。
 私とネイトを残して皆が出ていく。

「え? 聴かないの」

 まさか、ネイトに挨拶するためだけに来たの?
 慌てふためく私に、家族が笑顔を向けてくれた。
 聞けば隣のボックス席を押さえているらしい。

「大企業に挨拶しにきた零細企業というポーズのほうが、世間の目を誤魔化せるだろう?」
 
 お父様は、さすがにネイトの事情を理解しているらしい。

「『あとは若いお二人で』」

 お父様がウインクしながら退室していった。


 ……ボックスを出ていきながらお父様が鼻をすすって「あなた、泣かないの。この様子では、ひかるちゃんのときも泣きそうね」とお母様に叱られて。
 ひかるちゃんが「()かないですよ。私、庭と結婚してますから!」と勇ましく返事していた。
 叔父様が「ひかるは結婚させん! ……いや、しないのもな……。よし、俺達もついていく!」と唸っていたのは、ご愛嬌である。
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