一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
 ぐすっ。
 泣くのは想定内。
 ハンカチを二枚持ってきたけど、一枚で足りそう。
 ネイトが肩を抱いてくれている。
 洟をすすって、泣き腫らした目をハンカチで押さえる。
 ほ。
 ファンデーションもマスカラも落ちていないみたい。
 奇跡のメイク、さすが。
 にこりとネイトに笑みを向ければ、ちゅ……と優しいキスが降りてくる。

「泣いた顔も可愛い」
「〜〜〜〜っ!」

 ネイト、イタリア人みたい。真顔で言っちゃうのが、情熱人のなせる技なのかな。

「そっ、そろそろ大階段の下でフラウ・ヴューラーを待ってなくちゃね!」

 立ちあがったら、ネイトに手を握られた。
 ドアを出ていくと廊下を大階段と反対側、舞台側へと歩いていく。

「ネイト? そっちじゃないわ。……どこに行くの?」

 私のとまどいとは反対に、ネイトの歩みに迷いはない。
 行き止まりに人が立っている。
 私達二人を見て、壁としか見えないドアを開けた。
 明るいけれど、表の豪華さとはうってかわった空間。
 舞台にと続く廊下を進んでいくと、階段があった。

「ネイト……っ」
「玲奈、足元に気をつけて」

 降りながら期待と不安で胸が苦しい。
 階段をおりきると、またドアがある。
 防音扉。
 ネイトがためらいもなく開けた。
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