一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
 考えないようにしていた時間の終わりが来た。

『Nate, the schedule has come earlier
(ネイト、予定が早まった)

Get ready in five minutes
(五分で支度してくれ)』

 二人で朝食の支度をしているさなか、セキュリティチームのスタッフが彼の携帯電話にかけてきた。
 予測してたようでハンズフリーにしていたくせ、ネイト本人はしばし固まった。
 気を取り直し、動き始めようとしかけて私を見た。

「……玲奈、実は」   
「わかってる。その7。友好の証として多賀見製薬の令嬢とデートを重ねたネイトは、一人アメリカに帰る、でしょ」

 笑って見送ろう。
 決めていたのに、顔が歪む。
 こんなに急だとは思わなかった。
 出来れば、もっと前に言ってほしかったな。

「玲奈!」
「私、自分の部屋に帰るね。荷物は適当に処分しておいて」

 ダイニングからダッシュした。

「玲奈、待っ」

 なにごとか察したらしい呆れ声が携帯から聞こえてくる。
 
『Nate, didn't you talk to her?
(ネイト、彼女となにも話し合っていなかったのか)

If the problem is postponed, it will only get worse
(問題は先延ばしにすると、悪化の一途をたどる)』

 ほんと、そうね!

「I missed it(言いそびれてたっ)」

 意外。ネイトにしては優柔不断。

『It ’s not like you.(君らしくない失態だ)
 ……There is no choice(仕方ないな)』

 会話を聞きながら、考える。

 うん、外出用の服は着てる。
 この部屋に来てからネイトが買ってくれたものだ。
 申し訳ないけれど、着たままおいとまする。あとでクリーニングして送るわ。  

 ヘルガさんと遭遇したレストランで、ネイトが俊敏で握力が強いことはわかってる。
 捕まって抱きしめられたら、なにも考えられなくなる。

 私はバッグも持たずに玄関に突進した。
 タクシーで実家に帰ろう。
 ホテルから何万円かかるのかわからないけれど、立替えてもらえるはず。
 再会したときの洋服や鞄は、実家に送ってもらえばいい。
 1人になって考えをまとめたかった、のに。
 ぐい、と強い力で引き戻された。
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