一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
 彼は険しい顔をしていた。
 ピアノを弾いていたときは、キラキラと楽しそうな光を散りばめていた青の宝石が、なんだかどす黒い。
 
 抱き合っていたときも、欲望にけぶった瞳の色が濃くなっていたけれど。
 今は怒っている? ううん、憎んでいるの。
 誰を。……もしかして私を? 
 なんで。
 怒っていいのは、私のほうだよね?

 彼をなじらなければ。
 そう思うのに彼から目を離せず、うっとりとみつめてしまいそうな自分が未練たらしい。

「この、泥棒め」

 秀麗な唇から放たれたのは、痛烈な一言だった。
 完璧なイントネーション。
 なんだ、日本語ぺらぺらじゃない。

 ショックだった。
 私だったら外国に行ったら話せないまでも、その国の言葉を使おうとする。
 それが相手への敬意、友好の証だと思うから。
 なのに彼は、最後までドイツ語で通したのだ。
 ……ううん、この人は別人よ。

 私は必死に自分に言い聞かせる。

「家宝を返してもらおうか」

 そうか。
 この指輪を探して彼は死にものぐるいだったんだ。
 私は大人しく首に手をやり、彼のペンダントを外すとネイトに差し出した。
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