一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
「まったく君は! なんで毎回逃げだそうとするんだっ、しかも足が速い!」
「だって」

 プロポーズしてくれたときからわかっていた。
 ネイトはいずれ帰る人だ。
 仕事もあるし、日本には元々休暇で訪れていただけ。

 私達は急激に深く付き合うことになったから、時間が足りなすぎた。
 どこに住むのか、どういう風に結婚生活を送りたいのか。
 話し合いもしないで、蜜なる時間を味わうのに互いが必死だった。

 エリスさんの病気もあるし、ネイトのお父様は半身不随だから、彼の拠点はアメリカのほうがいい。
 私がアメリカに行くのが一番シンプルなんだけど。

 お兄様はどうするんだろう。
 今はアメリカ支社の地盤固めの最中だから、お兄様がしばらく日本に帰国できないことを不思議がる人間はいない。
 ……何年かあと。
 お父様が社長を降りるとき、お兄様は戻ってこられるんだろうか。

 役員はみんなパソコンもメールも使えるから、あとは時差の壁だ。
 決済の速さで社運が決まってしまうかもしれない。
 本当はお兄様がエリスさんを連れて、そのうち日本に戻ってくるのが一番いい。

 でも、エリスさんは長距離の移動が可能なの?
 それに、アメリカやヨーロッパのほうが先進医療は進んでいるんじゃないかしら。
 だとしたら、お兄様は帰ってこれない。

 両親だって老いていく。
 私、お兄様の代行として日本にいたほうがいいんじゃないかな。

 ……アメリカと日本との遠距離を、他ならぬ私は耐えられる?
 不安をネイトにぶつけては、彼になだめてもらう私。
 そんな私に、ネイトはいつか疲れてしまうんじゃ……。
 メソメソ考えてたら、下を向いてしまっていたらしい。

 ネイトにぎゅ、としまいこまれた。
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