一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
「……もしかして、アメリカにこのまま行くってこと?」

 声が低くなる。
 なんて勝手なことをするの?
 恫喝するようににらめば、ネイトはやたらにきっぱりと言った。

「いや、オーストリアだ」

 コアラがいる国ではなく、ヘルガさんが住んでいるウイーンの所在国だ。
 けれど、とうのご本人はまだ日本で公演中。
 オーストリアに、なにがあるの。
 想定外の答えばかりで、意味が頭になかなか入ってこない。

「私の質問の仕方が悪かったわ。ネイト、私は行き先を訊いてるんじゃないの。なぜ、貴方と一緒に私が飛行機に乗っているのか、理由を教えて」

「玲奈が日本から離れたくないようだから」

 ……見抜かれてた。
 お兄様を言い訳にして、私がアメリカに行く決心をつけずにいた。
 だから、ネイトは言えなかったの?
 でもね。
 
「そんなことで無理矢理、私を連れ出したの?」

「僕は君と出会うから、世界中を飛び回っている。僕にとって時差も距離も障害じゃないが、玲奈にとってはそうじゃないんだね?」

 うなずくしか出来ない。

「僕だって本当は君とずっといたい。叶うことなら、このまま(さら)っていく。だけど、君は許してくれないだろう?」

 涙があふれる。

「ご、めんなさい」
 
 いいんだよ、と言うように彼の手が私の頬をつつんで落ちた涙を拭ってくれる。
< 205 / 224 >

この作品をシェア

pagetop