一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
 だからって敵対心むきだしなこの人に負けっぱなしではいられない。

「ネイトという男性と知り合いましたが、私は彼をドイツ人だと思っていました」
「僕は、日本国内で知り合った相手が日本語を喋り黒髪黒い瞳だからといって、日本人とは判断しない」

 正論だ。
 私が欧米人の区別がつかないように、ネイトも日韓中の区別はつかないだろう。
 だからって、わざわざ『話している言語は、彼の母国語ではないんじゃないか?』なんて、誰が疑うの。

 それに、誰がわざわざ海外のCEOの動向を丹念にチェックして、ストリートピアノを弾いているところに、さも偶然を装って居合わせるの?

「万が一知ってたとしても、あんなところに世界的企業のCEOがいるなんて、誰も思わないでしょう!」
 
 誰が、CEOが破れたジーンズを履いてると思うの?
 ネイトが。いや、ミスター・クロフォードがぐいと私の肩を掴んで、にらむための距離をとる。

「僕のピアノに聴き入る観衆のなかで、君だけが着飾っていた」
「友達の結婚式に参加してたんです」
「ヴァイオリンを持って?」

 うんざり。
 この人、どれだけ私が作為的だと思ってるのかな。

「そうです。ミスターのお国では存じませんが。日本では、披露宴で列席者が余興を披露して盛り上げたりするんです」

 ネイトが眉をひそめた。
 やめてよ。
 これ以上、貴方との一夜を汚さないで。
 顔が歪むのが自分で感じる。
 ネイトが私をずっと見ているけど、耐えきれず目をそらした。
 
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