一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
「玲奈、今日は社長権限で有給にする。おまえの上長には私から伝えておくから、ミスターとデートでもしてきなさい」

「ハ! 娘が色仕掛けなら、親も懐柔する気か!」

「話にならないわ。お父様、こんな失礼な敵対企業のCEOとなんて、デートするわけないじゃない!」

「いいから。話しあいが済んだら、二人で出直してきなさい。それとミスター、御社が弊社の株を買い占められても、最大で四九%にしかなりません。私を引きずりおろすには、脇が甘い」

 そうだった。
 お父様が、というより代々多賀見の当主が過半数の株を所有している。
 自社の持ち株制度があるけど、社員が保有している分も放出した株数に含まれている。
 かき集めても、四九%にも満たないだろう。

「どちらが脇が甘いかな」

 ネイトが、ふっと嘲笑を唇に張り付かせた。
 いやな予感がする。

「五一%だ」

 自信たっぷりだった。

 発行済み株式の三三%以上を所持していれば、重大な決定事項を拒否できる。
 さらに五〇%以上を取得すれば、社長をはじめとする役員の選任をおこなうことができるから、彼のいうことは間違ってない。
 けれど、お父様は絶対に放出しないから、彼には取得は出来ない。

 ネイトが一枚の紙を私達に提示した。

 日本語と英語で『株を譲渡する』という文言の下に、前の所有者である、多賀見 (じょう)という名前が書かれている。
 流麗な英文と違って、少し右肩上がりの癖のある和文と、あまりにも見慣れた署名。
 あれを書いた人は。
 お父様が呻いた。

「まさか……!」

 お兄様――!
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