一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
「ミスター。買収と娘を一緒の問題にするつもりは」
「旧従業員は全員解雇」
 
 無慈悲な言葉に私とお父様が固まる。
 
「多賀見は規模の割に人員を抱えこみ過ぎている」
「それはっ」

 理由があるのに!

「MRは大幅に削減。営業所は縮小もしくは廃止。利潤追求のため、人件費を削れるだけ削る。研究スタッフは各国から優秀な人材を呼び寄せ、総入れ替えする。工場は、日本からフィリピンに移す」
「っ」
 
 猛反対にあうのを承知で言い切るネイトに、私たちには対抗手段がなかった。
 
「ただし。創業者一族の令嬢が僕と結婚すれば、経営陣の交代は緩やかに行なわれるだろう。従業員は、年功序列から評価年俸制に移行するのを反対した者だけ、退職勧告をする」
 
 ネイトの放った言葉が最後通牒なのは明らかだった。
 多分、私との結婚は対外的に必要なのだろう。

 出逢いこそ偶然だったけれど。
 澱みない口調から察するに、一夜を共にしていなくても、彼の中では今日のことは決定事項だったのだ。

 ネイトの双眸の温度が氷点下になった。
 冷たすぎると、肌は火に炙られたときと似たような感覚を覚える。
 私はこの人に心を凍らせられ、壊死に追い込まれている最中だった。
 それなのに、みつめられている場所が火傷したときのように熱いと感じてしまう。
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