一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
「多賀見社長と穣については、徳も人望も篤く有能だと評価をしている。……社長令嬢については不明だが」

 社員のために己を投げ出せないだろうと言っているような彼の視線に、考えるまでもなかった。従業員全員と私一人では比べるものが違い過ぎる。
 
「……わかりました。貴方と結婚します」

 一瞬、昏い歓びを感じてしまった。
 軽蔑されてても、政略結婚でも。戸籍だけでも、貴方を一人占めできると。

「ほんと、二人とも素直じゃない」

 お父様……。
 私は今、死ぬか生きるかレベルの大決断をしたんだけど。
 なぜ、『出来の悪い子をもつと苦労する』みたいな顔で、聞こえよがしにつぶやくの。

 ネイトも気をのまれてしまったのか、悪い表情をもう一度浮かべ直した。

「いいだろう。君の不貞は約束不履行とみなす。だが、僕からの愛を期待するな」

 息が止まりそうになる。

 クロフォードのCEOほどの人物なら、王族クラスか巨大コンツェルンとの政略結婚をも望めるはず。
 彼からすれば、神聖な戸籍を汚してまで私を迎えいれるメリットは、いくら私が多賀見を背中にしょってても大きくはない。
 ……報復なんて言ってるけど。
 彼が私を恋しがってくれてるんじゃないかな、なんて思っていた私はどこまでも乙女脳。

 多賀見にメリットが大きいこの結婚は、彼にとっては私に与えようとしている罰なんだわ。
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