一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
「そんな君だから、穣は株を預けたんだと思うけどね」

 私を抱きしめているネイトの体が震えている。

「父のことも姉のことも公表していない。なぜ知ってる? 貴方は他に何を知っている!」 

 ネイトの気迫が剣のように鋭い。
 お父様は肩をすくめてみせた。

「別に。私はせいぜい我が社員と、この部屋に訪れる人間のことを知っているだけだ」


 沈黙のあと。
 ネイトはあえて私から視線を逸らして、つぶやいた。

「『多賀見社長は薬としても毒としても一流』とは、こういうことか。……いいだろう、要求をのもう」
 
 ネイトは私をひたとみつめた。

「まずは日本滞在中、僕の秘書を務めてもらおう。色恋ではない以上、買おうとしている商品の性能を確認しなければ、話にもならない」
 
 ネイトの言葉に胸がずきりと痛む。
 喉まで競り上がってきた恋慕を飲み込んでも、まぶたの結界を熱いものが込み上げてくる。
 泣くな。
 涙で男の同情を誘うな。

 
「ついてきたまえ」
「行きます」

 二人で社長室から退室しようとしたら、背中に声がかかった。

「玲奈、しっかりやりなさい」
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