一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
 この国はスーツ信奉者が多い。ジーンズにスニーカーを履いている僕を、気に留める人間は極端に少なくなる。
 セックスアピールをしてくる無遠慮な視線を気にしても仕方ない。
 
 それよりもこの国のVIPに見つかって招待攻撃に遇うなんて、冗談じゃない。
 僕から特ダネを掠め取ろうとする、パパラッチの目を誤魔化せればそれでいい。
 
 ホテルのホームページを確認したら、隣接しているショッピングモールにお気に入りのドイツパン屋が残っている。
 日本、特に主要都市は変遷が激しい。
 残っていてくれて、ほっとした。

「せっかくだから、僕が資金を提供してもいいな。今日オーナーに話してみるか」

 経営が傾いて、どこかに移転してからでは遅い。

「夜は、ロッゲンブロート(ライ麦比率九〇%以上のパン)にクリームチーズ、スモークサーモン。レバーヴルストにクルス。ワインと、フルーツでもあればいいか」

 目当ての店に向かううち、広場にさしかかった。
 吹き抜けの空間。
 憩いとコミュニケーションをテーマに掲げたという広場にはストリートピアノが設置されていた。
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