一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
「へえ」

 本調子ではなかったが、気晴らしには持ってこいだ。椅子に座り、耳障りのいい曲を流し始める。
 人が集まってくるが、セッションをしようとする者は出てこない。

「日本人はシャイだというが、本当だな」

 あたりを見渡せば、一人の女性が目についた。
 日本人にしては長身で、はっきりした顔立ち。
 メリハリのあるボディラインを綺麗に魅せるドレスを着ていて、一人だけ異彩を放っている。

 チラチラと周りの男たちから盗み見されているが、彼女自身は気づいてないようで僕の音を楽しそうに聞いていた。
 華やかなメイクをして、大きな荷物と楽器ケースをかかえている。

 試しにドイツ語で話しかけてみた。
 目を見開き、「私?」と訊き返してきたあと、艶やかに微笑んだ。

 日本語以外で話しかけると、逃げ出す人間が多いこの国では珍しい。
 臆することなく楽器を取り出して調弦をしているあたり、腕に自信もあるのだろう。
 ドレスを着ているということは公演後の音楽家だろうか。お手並み拝見。
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