一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
 美しい音色が彼女のヴァイオリンから流れ出す。
 ほう……っとため息がそこかしこから聞こえた。 

 なかなかだな。
 演奏している姿は絵に残しておきたいほどだ。
 事実、それまで僕の演奏に見向きすらしなかった男達が、彼女をカメラに収めている。

 やめろ。
 一気に不快になる。

 玲奈は僕が観察していることには気づいてないらしく、僕に見惚れている。

 優越感。
 彼女は僕のものだ。

 僕に集中させるべく、弓さばきが甘くなってきたからメロディラインを奪ってやった。
 すると玲奈は悪い笑みを浮かべると、僕を返り討ちにしてきた。

 まいったと肩をすくめてみせれば、得意げな表情をしてくるのがキスしたくなるほど生意気だ。
 楽しい。
 気分が一気に持ち直す。
 けれど、彼女が気になる。
 心から楽しんでいるのがわかる表情なのに、音から聞こえてくるのは、音楽への限りない憧れと切なさ。

 ……君も、なのか。
 プロを諦めても音楽を愛することがやめられないのか。
 急速に欲望が高まっていく。
 目を見れば、玲奈も僕に劣情を抱いてるのがわかる。
 玲奈は僕の容姿に惹かれているのかもしれないが、少なくとも僕をネイトという一人の男として見ている。

 僕の後ろにある、クロフォードという名前を知らない誰かに愛されたい。

 挫折した者同士の傷の舐め合いでもいい、君の温かい肌に包まれて眠りかった。
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