一夜限りの恋人は敵対企業のCEO⁈【後日談有】
 私にとっては父方、ひかるちゃんにとっては母方のお祖父様。
 ひかるちゃんの家は代々、多賀見家の専属庭師である。
 お祖父様はだいぶ前に亡くなっているが、叔父様の雇用主にあたる人でもあった。
 
「私は、『これだー!』って思えるものに出会えた幸運と。『この道に向いてないんじゃ?』と思わない鈍さと。辛くても逃げ出したくなっても、向き合う根性だと思ってる」
「……ウン」

 とても大切な言葉だった。

 出会えた幸運はある。
 音楽家に向いてないなんて思いたくない、私には音楽しかない。
 けれど根性はもう、尽きる寸前だった。

「玲奈ちゃん、音楽は嫌い?」
 
 ひかるちゃんから聞かれて、 私も自分に質問してみた。
 演奏するのも、聴くのも、聴いてもらうのも。

「……好、き」
「せっかく音大に入ったんだから、楽しもうよ。音楽って、音を楽しむって書くでしょう」

 目からウロコだった。
 
「最近、音を学ぼうとしか考えてなかった……」
「学ぼうとしたことは無駄にならないよ」

 彼女の声は優しかった。

 
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